C++における関数呼び出しという性質を抽象化しまとめた、仮想操作 INVOKE を定義する。
- C++17からは、仮想操作 INVOKE を実体化した
std::invoke
関数テンプレートが提供される。 - C++23からは、仮想操作 INVOKE
<R>
を実体化したstd::invoke_r
関数テンプレートが提供される。
用語定義
- call-signature とは、戻り値型に続けて丸カッコの中に0個以上の引数型を並べたものである。 cf.
int ( std::string, int )
- callable-type とは、関数呼び出し演算子を適用できる型 ( 関数、関数への参照、関数へのポインタ、
operator ()
をオーバーロードした型もしくはそれを(直接または間接的に)public
継承した型 ) もしくはメンバへのポインタ型を指す。 - callable-object は、 callable-type 型のオブジェクトである。
- call-wrapper-type は、 callable-object を保持し、自身に対する関数呼び出し操作が行われたとき、保持しているオブジェクトに委譲する。
- call-wrapper は、 call-wrapper-type 型のオブジェクトである。
- target-object とは、 callable-object に保持されているオブジェクトのことである。
要件(C++14まで)
- 仮想操作 INVOKE
(f, t1, t2, ..., tN)
を次のように定義する。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、t1
が T 型のオブジェクトあるいはT
またはT
を継承した型への参照であるとき、(t1.*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、t1
が上記の条件に当てはまらない場合、((*t1).*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、t1
がT
型のオブジェクトあるいはT
またはT
を継承した型への参照であるとき、t1.*f
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、t1
が上記の条件に当てはまらない場合、(*t1).*f
と同じ効果を持つ。- 上記の条件のどれにも当てはまらない場合、
f(t1, t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。
- INVOKE
(f, t1, t2, ..., tN, R)
を、 INVOKE(f, t1, t2, ..., tN)
の実行結果の戻り値が型R
に暗黙的に変換されること、と定義する。 - call-wrapper が weak-result-type を用意している場合、メンバ型
result_type
はtarget-object の型T
に応じて次のように定義される。T
が関数へのポインタ型であるとき、result_type
はT
の戻り値型と等しい。T
がメンバ関数へのポインタ型であるとき、result_type
はT
の戻り値型と等しい。T
がresult_type
という名前のメンバ型を持つとき、result_type
はT::result_type
と等しい。- どの条件にも当てはまらない場合、
result_type
は定義されない。
- すべての call-wrapper は、MoveAssignable でなければならない。
要件(C++17)
- 仮想操作 INVOKE
(f, t1, t2, ..., tN)
を次のように定義する。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、is_base_of_v<T,decay_t<decltype(t1)>> == true
(t1
がT
またはT
を継承した型のオブジェクト/参照)であるとき、(t1.*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、decay_t<decltype(t1)>
がreference_wrapper<T>
(t1
がreference_wrapper
の特殊化)であるとき、(t1.get().*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、t1
が上記の条件に当てはまらない場合(例えば、t1がT
のポインタ)、((*t1).*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、is_base_of_v<T,decay_t<decltype(t1)>> == true
(t1
がT
またはT
を継承した型のオブジェクト/参照)であるとき、t1.*f
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、decay_t<decltype(t1)>
がreference_wrapper<T>
(t1
がreference_wrapper
の特殊化)であるとき、t1.get().*f
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、t1
が上記の条件に当てはまらない場合(例えば、t1がT
のポインタ)、(*t1).*f
と同じ効果を持つ。- 上記の条件のどれにも当てはまらない場合、
f(t1, t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。
- INVOKE
<R>(f, t1, t2, ..., tN)
を次のように定義する。R
がvoid
かそのcv修飾の場合は、static_cast<void>(
INVOKE(f, t1, t2, ..., tN))
。- それ以外の場合は、INVOKE
(f, t1, t2, ..., tN)
の実行結果の戻り値が型R
に暗黙的に変換されること。
- すべての call-wrapper は、MoveConstructible でなければならない。
要件(C++20)
- 仮想操作 INVOKE
(f, t1, t2, ..., tN)
を次のように定義する。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、is_base_of_v<T,remove_cvref_t<decltype(t1)>> == true
(t1
がT
またはT
を継承した型のオブジェクト/参照)であるとき、(t1.*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、remove_cvref_t<decltype(t1)>
がreference_wrapper<T>
(t1
がreference_wrapper
の特殊化)であるとき、(t1.get().*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。f
が型T
のメンバ関数へのポインタであり、t1
が上記の条件に当てはまらない場合(例えば、t1がT
のポインタ)、((*t1).*f)(t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、is_base_of_v<T,remove_cvref_t<decltype(t1)>> == true
(t1
がT
またはT
を継承した型のオブジェクト/参照)であるとき、t1.*f
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、remove_cvref_t<decltype(t1)>
がreference_wrapper<T>
(t1
がreference_wrapper
の特殊化)であるとき、t1.get().*f
と同じ効果を持つ。N == 1
で、f
が型T
のメンバオブジェクトへのポインタであり、t1
が上記の条件に当てはまらない場合(例えば、t1がT
のポインタ)、(*t1).*f
と同じ効果を持つ。- 上記の条件のどれにも当てはまらない場合、
f(t1, t2, ..., tN)
と同じ効果を持つ。
- INVOKE
<R>(f, t1, t2, ..., tN)
を次のように定義する。R
がvoid
かそのcv修飾の場合は、static_cast<void>(
INVOKE(f, t1, t2, ..., tN))
。- それ以外の場合は、INVOKE
(f, t1, t2, ..., tN)
の実行結果の戻り値が型R
に暗黙的に変換されること。
- すべての call-wrapper は、Cpp17MoveConstructible かつ Cpp17Destructible でなければならない。
要件(C++23差分)
C++20 における 2. について、次の文言を項目の最後に追加する。この変更は、R
が参照かつINVOKEの実行結果がR
に束縛されることで寿命が延長される場合にダングリング参照が作成されてしまう事例を検出するための要件である。
reference_converts_from_temporary_v<R, decltype(
INVOKE(f, t1, t2, …, tN))> == true
の場合、INVOKE<R>(f, t1, t2, …, tN)
は不適格。
まとめ
第1引数がメンバ関数へのポインタの場合でも非静的メンバデータへのポインタの場合でも,第2引数がクラスオブジェクトへの参照の場合でもポインタの場合でもポインタっぽいものの場合でも,なんか知らんけどそれっぽく上手くいく ように取り計らった操作のことである。
関連項目
参照
- P0777R1 Treating Unnecessary
decay
- C++20から
decay_t
をremove_cvref_t
へ変更。
- C++20から
- P2136R3
invoke_r