namespace std {
template <class T>
complex<T>
asinh(const complex<T>& x); // (1) C++11
template <class T>
constexpr complex<T>
asinh(const complex<T>& x); // (1) C++26
}
概要
複素数値の逆双曲線正弦(エリアハイパボリックサイン:area hyperbolic sine(備考参照))を得る。
戻り値
引数 x
の逆双曲線正弦。本関数の値域は、虚軸方向は全域、実軸方向は [-π/2, +π/2]
の区間である。
備考
- 本関数は実軸の区間
[-1, +1]
の外側を分岐截断とする。 - 本関数は、C99 の規格にある
casinh
(より正確にはcomplex.h
ヘッダのcasinh
、casinhf
、casinhl
の 3 つ。それぞれ C++ のasinh<double>
、asinh<float>
、asinh<long double>
に相当)と等価である。
C99 では、処理系が ISO IEC 60559(IEEE 754 と同一)に準拠している場合、以下のように規定されている。asinh(conj(x)) = conj(asinh(x))
で、また、asinh
は奇関数(つまり、asinh(-x) = -asinh(x)
)。asinh(complex(+0, +0))
はcomplex(+0, +0)
を返す。- 有限で正の符号を持つ(
+0
を含む)x
について、asinh(complex(x, +∞))
はcomplex(+∞, π/2)
を返す。 - 有限の
x
について、asinh(complex(x, NaN))
はcomplex(NaN, NaN)
を返すとともに、無効演算の浮動小数点例外(FE_INVALID
)を引き起こす可能性がある。 - 有限で正の符号を持つ(
+0
を含む)y
について、asinh(complex(+∞, y))
はcomplex(+∞, +0)
を返す。 asinh(complex(+∞, +∞))
はcomplex(+∞, π/4)
を返す。asinh(complex(+∞, NaN))
はcomplex(+∞, NaN)
を返す。asinh(complex(NaN, +0))
はcomplex(NaN, +0)
を返す。- 有限で非ゼロの
y
について、asinh(complex(NaN, y))
はcomplex(NaN, NaN)
を返すとともに、無効演算の浮動小数点例外(FE_INVALID
)を引き起こす可能性がある。 asinh(complex(NaN, +∞))
はcomplex(±∞, NaN)
を返す(結果値の実部の符号は未規定)。asinh(complex(NaN, NaN))
はcomplex(NaN, NaN)
を返す。
- 処理系が ISO IEC 60559 に準拠しているかどうかは、C99 の場合はマクロ
__STDC_IEC_559_COMPLEX__
が1
に定義されている事で判別可能であるが、C++ の規格書には該当する記載を見つける事ができなかった。 -
逆双曲線正弦の算出については、一部の算術型に対しても、他のヘッダで定義されている。
引数の型 関数 ヘッダ 備考 float
asinh
cmath
C++11 から double
asinh
cmath
C++11 から long double
asinh
cmath
C++11 から 任意の整数型 asinh
cmath
C++11 から なお、残念ながら
valarray
クラステンプレートには逆双曲線正弦の算出は定義されていない。 逆双曲線関数は C++11 で追加された関数であるため、その際の追加漏れかもしれない。 -
規格書では arc hyperbolic sine となっているが、逆双曲線関数で求めるのは「弧(arc)」ではなく「面積(area)」であるため、(広く誤用されてはいるものの)適切な表現ではない。(逆双曲線関数 - Wikipedia)
例
#include <iostream>
#include <complex>
int main()
{
std::complex<double> c(1.0, 2.0);
std::complex<double> result = std::asinh(c);
std::cout << "asinh( " << c << " ) = " << result << std::endl;
}
出力
asinh( (1,2) ) = (1.46935,1.06344)
バージョン
言語
- C++11
処理系
- Clang: 3.0 ✅, 3.1 ✅, 3.2 ✅, 3.3 ✅, 3.4 ✅
- GCC: 4.3.6 ✅, 4.4.7 ✅, 4.5.4 ✅, 4.6.4 ✅, 4.7.3 ✅, 4.8.1 ✅, 4.8.2 ✅, 4.9.0 ✅
- ICC: ??
- Visual C++: 2012 ✅, 2013 ✅, 2015 ✅, 2017 ✅
備考
- libstdc++ では(規格通りに)C++11 以降のモードでなければ本関数は使用できないが、libc++ では C++98 モードでも使用することができる。(上記の Clang が C++11 モードになっていないのはそのため)
- libstdc++ では、通常 glibc の対応する関数を呼び出すため、上記の備考に記載した C99 の ISO IEC 60559 準拠要件を満たす。
しかし、glibc を使用していない libstdc++、および、libc++ は、当該要件を満たしていない(満たすつもりが無い?)ようである。
関連項目
名前 | 説明 |
---|---|
acos |
複素数の逆余弦を求める。 |
asin |
複素数の逆正弦を求める。 |
atan |
複素数の逆正接を求める。 |
acosh |
複素数の逆双曲線余弦を求める。 |
atanh |
複素数の逆双曲線正接を求める。 |
cos |
複素数の余弦を求める。 |
cosh |
複素数の双曲線余弦を求める。 |
exp |
自然対数の底 e の累乗(複素数)を求める。 |
log |
複素数の自然対数を求める。 |
log10 |
複素数の常用対数を求める。 |
pow |
複素数の累乗を求める。 |
sin |
複素数の正弦を求める。 |
sinh |
複素数の双曲線正弦を求める。 |
sqrt |
複素数の平方根を求める。 |
tan |
複素数の正接を求める。 |
tanh |
複素数の双曲線正接を求める。 |
asinh |
実数の逆双曲線正弦を求める。 |
参照
- P1383R2 More constexpr for
<cmath>
and<complex>
- C++26で
constexpr
対応した
- C++26で